『トーニオ・クレーガー』


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 体が大きくなって、ぽつぽつニキビが出来たり、声が出にくくなったりする中学生を見ると、ややこしい時期が始まるねという気持ちになります。

 当たり前だったことに違和感を感じ始める。心と身体が勝手に成長して、思い通りにならなくなる。

 受験勉強も始まる。進路を決めろとか、自覚を持てとか、せっつかれることでしょう。彼らには、日ごといろいろな難題が待ち受けています。

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 それらを一見、難なく切り抜けて、青春時代を十分に楽しむ子どもたちもいます。他方で、自分をもてあまし、居場所を見失って、周囲とぶつかる子どもたちもいる。

 もちろん、人によって事情はさまざまで、悩みのない若者なんていないでしょう。でも、さしあたり割を食うのは、変化に上手く対応できない不器用な子たちだと思います。

 大人への道筋を上手に歩むことは難しい。なぜ自分は友だちのようにうまく行かないのか、何かが不公平だと感じているかもしれません。

 しかし、後になって振り返れば、そういう日々こそが、自分を形づくる大切な時期だったということになるだろうと思います。

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 『トーニオ・クレーガー』はドイツの作家トーマス・マンの短編小説です。主人公のトーニオは本を読むのが大好きな子どもで、暇さえあれば思索に耽り、詩を書いています。

 友だちのハンスは町の人気者で、たくさん話をしたいけれども、ハンスは彼の話をさっぱりわかってくれない。

 金髪で青い目のインゲには、目が離せないほど心惹かれるけれども、彼女は彼の詩にも、彼自身にも少しも興味を示さない

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 トーニオはやがて作家となります。そして、故郷近くへ旅行したとき、かつてのハンスとインゲに似た屈託のない若者たちに出会う。

 驚いたことに、多くの経験を積み、芸術的試練を経てきたはずなのに、彼は二人に子どものころと全く同じ当惑と憧れを抱く。

 そう、彼の中には、今でも「普通の人」がいて、二人が象徴する、人間的なもの、生き生きとしたもの、平凡なものを愛するよう仕向けている。

 そして、その愛こそが彼を作家たらしめているのであり、この上なく大切なものだと思い至るのです。

 憧れと、憂鬱な羨望と、ほんの少しの軽蔑と、この上なく清らかな幸福感。彼はそのときの自分の心持ちを、そう描写しています。
あさのは塾便り::本・映画など | 12:42 AM | comments (x) | trackback (x)

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