『眺めのいい部屋』


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 『眺めのいい部屋』は1986年のイギリス映画(監督ジェームズ・アイヴォリー、原作E.M.フォースター)です。

 時代は20世紀初頭、イギリスの良家の子女ルーシーは、年の離れた従姉のシャーロットとイタリアに旅行に来ています。

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 しかし、フィレンツェの宿についてみると、初めの話とは違って、通されたのは窓から裏通りしか見えない北側の部屋でした。

 この宿はイギリス人の常宿になっており、同じく旅行に来ていたエマソン氏は、夕食時にルーシーたちの事情を知って、部屋の交換を申し出ます。

 好意的ではあるが、初対面にしては遠慮のない提案なので、シャーロットは一度は断りますが、牧師の取りなしで受けることにしました。

 エマソン氏にはジョージという息子がいます。ジョージは物静かで風変わり、人の目を気にせず行動するところがあって、ルーシーは気づかぬうち心惹かれていくのです。

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 世の中には、気持ちを素直に表現できて、オープンに付き合えるカラッとした恋愛があります。それはそれで羨ましい。

 でも、他方では打ち明けられない、素直になれない、環境がそうさせないなど、ままならぬ恋愛もたくさんありますね。

 当人たちは大変ですが、逡巡や遠回りも何のその、それでもなお成就されていくところに、大切な価値があるでしょう。

 ルーシーは育ちのよい貴族の娘で、家族に信頼され、体面を重んじるべきだし、軽はずみはできない。だから、気持ちをかき乱すジョージを遠ざけたいとも思う。

 その一方、彼を好きだという気持ちは、上流階級の価値観や生き方の中で、自分が息苦しく感じていたことに気づくきっかけともなるのです。

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 フィレンツェの美しい街並みや、イギリスの緑豊かな田園風景が舞台となり、プッチーニのアリアが背景に流れて、エレガントで落ち着いた雰囲気に仕上がっています。

 ルーシー役のヘレナ・ボナム=カーターは当時20歳。後年エキセントリックな役柄も多い彼女ですが、ここでは内に情熱を秘めた個性的な淑女を演じます。

 脇役として、いつも気を遣っているのに、なぜか人一倍周りに迷惑をかける従姉のシャーロット(マギー・スミス)、容姿端麗で教養豊かだが、いかにもスノビッシュな婚約者のシシル(ダニエル・デイ=ルイス)など、登場人物それぞれに味わいがあり、魅力的です。
あさのは塾便り::本・映画など | 12:51 AM | comments (x) | trackback (x)

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