『人類が生まれるための12の偶然』


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 本書(眞淳平著、岩波ジュニア新書)は、この宇宙に人類が生まれ、今日のような繁栄を遂げるには、いくつもの偶然が必要だったことを取り上げています。

 たとえば、太陽は大きすぎず、遠すぎず、人類の生存に適した環境を整えた。木星や土星は、地球に巨大隕石が衝突する確率を減らし、月の存在は地球の自転速度を調節した。

 地球自身の大きさもほどよく、大量の海水、地磁気、オゾン層が生物を保護することになりました。宇宙の誕生や人類の歴史に興味を持つ方には、楽しい入門書になると思います。

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 ところで、本書に12ほど挙げてある偶然のうち、面白いと思ったのは次の2つです。

偶然1 宇宙を決定する「自然定数」が、現在の値に決まったこと。

 この宇宙には、光の速さc、万有引力の法則を記述する重力定数G、アボガドロ定数NAなど、常に同じ値をとる数があって、自然定数と呼ばれます。

 これらの値が変化すると、宇宙のあり方は変容し、物質の性質や運動も変化して、生物のような複雑な構造は保てなくなると言います。

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偶然10 地球に、豊富な水が存在したこと。

 地球上の水は、摂氏4度のとき密度が最大になるという性質を持つため、氷が水に浮きます。(その他多くの物質は、液体より固体の方が密度が高いため、固体は沈みます)

 このため、地球史で3回ほどの全球凍結が起きたとき、氷は水面近くから凍っていくので、内部の水が液体のまま保たれ、水中の生物が保護されたと考えられるのです。

 また、水は多くの物質を溶かして、体内の隅々に運びますし、比熱が大きく、気温の変化を緩和します。

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 前者の自然定数の決定は、宇宙の構造そのものを左右する重要な条件です。後者の水の性質もまた、水分子の構造に由来する、生物の生存に不可欠な条件です。

 ですから、これら2つの偶然は、他の偶然とは種類が異なる重大性を帯びているように見えます。

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 話は変わりますが、ここで、サッカーの試合のことを考えてみます。

 サッカーコートは、選手たちの磨きのかかった技術の披露の場ですが、同時に、ボールの動きがもたらす偶然に、観客たちが一喜一憂する場でもあります。

 ところで、サッカーコートの広さやゴールポストの幅などは、偶然に恣意的に決まったものとは言えないでしょう。おそらくは歴史的な経緯を経て、試合が白熱しやすいような大きさへと収斂してきたものでしょう。

 サッカーのルールも含め、サッカーの約束事が現行のような形をとっているとして、それがそうある「偶然」は、ただの偶然とは違うレベルのものです。

 実際の試合で起こる、ハプニングの偶然とは、分けて考えるべきだと思うのですね。

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 翻って、再び宇宙の話です。

 現在の宇宙の構造や仕組みは、サッカーの約束事に似ていると思います。宇宙に存在する事物は、ゲームに参加する選手たちのようなもので、宇宙の法則に従い、ときに偶然に翻弄されながらプレーを続けている。

 それでは、この宇宙における「約束事」とは、いつどうやって決まったものなのでしょう。これもまた、ある種の偶然にカウントされるべきものなのでしょうか。

 それとも、ひょっとしたら、ゲームが面白くなるように、ルールの調整を図った超越者がいるのではないでしょうか。

 いや、それとも私たちが偶然と思っているものすら、人知を越えているために、私たちがそう思い込んでいるだけなのかもしれません。

 そんなことを考えながら、秋の夜長は更けていくのです。
あさのは塾便り::本・映画など | 09:59 AM | comments (x) | trackback (x)

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