『ゲド戦記1 影との戦い』 その2


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(承前)

 思慮深い呼び出しの長(おさ)はゲドにこう語ります。「そなた、子どもの頃は、魔法使いに不可能なことなどないと思っておったろうな。」

 「だが、事実はちがう。力を持ち、知識が豊かにひろがっていけばいくほど、その人間のたどるべき道は狭くなり、やがては何ひとつ選べるものはなくなって、ただ、しなければならないことだけをするようになるものなのだ。」

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 ですから、CG映画やアニメに出てくるいささかインフレ気味の派手な魔法を本書に期待するなら少し勝手が違うかもしれません。

 さらに言えば、今の私たちは科学という魔法に彩られた世界に生きており、その魔法は暴走気味です。何もかもが複雑になって本質的なものは隠されてしまった。山ほどの仕事と娯楽を抱え、立ち止まって考える時間すら失っています。

 調和と均衡を保ち抑制の利いたアースシーの魔法世界はむしろそうしたすべての過剰を削ぎ落として、かつて人間が何に悩んでいたかを思い出させてくれるようです。

 ゲドとともにこの世界を旅していると、人間の生き方の原風景が見られるようで何とも言えない懐かしさを覚えるのです。

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 早く役に立つ魔法を習得したいと気持ちがはやる少年ゲドに向かい、オジオンは一本の雑草を指して、まずそれを見て観察しそのすべてを知らなければならないと諭します。

 「そうなってはじめて、その真(まこと)の名を、そのまるごとの存在を知ることができるのだから。用途より大事なのはそっちのほうよ。

 そなたのように考えれば、では、つまるところ、そなたは何の役に立つ? このわたしは? はてさてゴント山は何かの役に立っておるかな? 海はどうだ?」

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 なお本書はスタジオジブリによってアニメ化されましたが、原作者の意向に反し宮崎駿氏が監督を務めなかったため両者の間に大きなしこりを残しました。

 ル=グウィンは「契約書に署名してしまえば著者はもう存在しないも同然であり映画の出来についての責任を問わないでほしい」という意味のことを述べています。
あさのは塾便り::本・映画など | 09:21 AM | comments (x) | trackback (x)

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